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2012年9月

高知新聞連載9月26日(地球・美の幻風景)~悠久の刻~

_1                     ~悠久の刻~

夏の盛りもいつのまにか過ぎ 

海岸通りの賑わいが引くように空にも静けさが戻ってきた

昼間の撮影後 ぼんやりと暮れゆく空を仰ぎながら

私は紀伊半島を回ることにした

橋杭岩(はしくいいわ) 一度訪れてみたいと思っていたところだ

和歌山県串本町にある奇岩群 

串本から大島に向かい大小約40の岩が南西一列に

およそ850メートルもの長きにわたって連続してそそり立っている

直線上に岩が立ち並ぶ姿が橋の杭のように

見えることから橋杭岩と呼ばれている

日が落ちて薄雲の間を浮遊する月の明かりに

突如として浮かび上がる幾つもの巨大な磐岩に

私は はっと 息を呑(の)んだ

それはまるで 何体もの仏様が水の上に坐して

瞑想していらっしゃるようにも見えた

神聖な時間の領域に忍び込むように 私は対岸の堤防から

そっと月との語らいのお姿を撮影させて貰うことにした

本当に不思議な光景だ 

ここにも大地は深く歴史を残し 私たちの想像を掻き立ててくれる

またこの岩群にはこんな伝説もある

その昔 弘法大師と天の邪鬼(あまのじゃく)が賭をして

一夜で大島まで橋を架ける競争をしたが 

負けそうになった天の邪鬼は

鶏が鳴く真似をして夜明けを告げた為

弘法大師は作業をやめ 橋の杭だけを残して去って行った

今では岩の起点には弘法大師を祭り

神聖な岩として地元の人々に大切にされている

吉野熊野国立公園内にあり 

国の天然記念物に指定されている場所だ

満月の夜は神秘に過ぎて行く 

岩間にも波間にも注がれるこの明かりを

多くの人が愛し 詩に詠み 宴を催し 思いを表わす

私は手のひらに包まれたカメラでこの月を詠もう

一瞬一瞬の切り取られた映像は まるで引き伸ばされた時間だ

今宵 偶然にも出会った満月の明かりは 

深いしじまに流れ 

非日常的な世界に佇(たたず)んでいるにもかかわらず

想像力は無限を駆け巡る

古代より波に記憶された 人々の想いが懐かしさとなって

耳元で囁(ささや)き 寄せては返ってゆく

宇宙に2度 旅立った 宇宙飛行士 毛利衛氏はこう語っていた

「月を愛(め)でる日本の文化は

   21世紀の人類が生き延びるための知恵となるだろう」と・・・

                        

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高知新聞連載9月12日(地球・美の幻風景)~雲の道~

Photo_2                    ~雲の道~

イタリアのトスカーナ地方にも似た 

なだらかな丘陵が続く田園地帯

北海道美瑛町 

まるで大地が大きな波のように現れるこの地は

戦前 陸軍の演習場だったと聞く

その後 開拓者たちの手によって何度も何度も耕され

現在のような豊かな地に姿を変えて行った

その間 開拓者たちの苦労は想像以上だったという

平地に鍬や耕耘機を充てるのとは事情が異なり

大きな事故につながることも随分とあったそうだ

先人たちの努力の甲斐あり 

今では北海道を代表する観光地として

全国に知られるようになり

「日本で最も美しい村連合」にも加盟している

世界地図を広げると 豆粒のような日本列島の地に

こんなに広大で美しい大地が潜んでいるとは

誰が想像できただろう

絵巻物をひもとくように 移ろいでいく季節

その泡沫の時間に

日本人は心の安定感を求めてきたのかもしれない

流れるように そよぐように

過ぎて行く北海道の季節の中で

その日 私はあてどもなく美瑛で車を走らせていた

私は急いで車を止め 撮影の準備に入った

それは ただならぬ雲の形であった

風景写真の場合 

いかに素晴らしい雲との遭遇があるかどうかで決まる

と言っても過言ではない 

しかし 数秒で形を変えて行く雲は 

「あっ!今いい雲が出ている」

と思ってから準備をしても間に合わない

いかに予想し 予感を感じて撮影に挑むかが大切だ

その時 ファインダーの向こうに人影はなく 

長袖のシャツの上を通して 

少しひんやりとした風が 肌の中を通り抜けて行った

かつて先人達も感じていただろう

雄大な大地が醸し出す不思議な力を 

見上げると大きな雲の固まりは 

ゆっくりと空を這い 私を誘う

雲の周りから射し込む太陽は

ますます輝きを増し大地を照らす

戦後人々が歩んできた道が

大地からずっと空へと続いてゆくように

黄金色に彩られた風景に包まれて

私は異国の地に佇んでいるようだった

緑のじゅうたんの間には香りの妖精が

あちらこちらに隠れているのか心地よい香りが漂う

広い大地に引っ張られるように

胸の中心から四肢をぐんと伸ばしてみた

心も腕もあの雲に届けとばかりに─

新たな目は新たな風景を見出す 

色彩と時間のはざまに入り込み

この地の魔力にいつの間にか私はとりつかれていった

無窮の時の中で確かにやってくる秋の気配

季節の風はすべてをゆだねさせてくれる

撮影を終え 

あらためて空を見上げると まるで雲全体が 

ひとつの意志をもって 地球を旅しているかのようだった

                        

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