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2012年6月

高知新聞連載6月20日(地球・美の幻風景) 那智の滝

Sjpg__2                     ~那智の滝~

深き森に抱かれた熊野三山 

自然の息づかいを強く感じさせられる地

その昔ヤタガラスが 神武天皇をこの地に導いたと伝えられている

日本神話に登場するヤタガラスは 3本の足を持ち 

神の使者として信仰されて 太陽の化身とも考えられている

昨年、私は思い立ったかのように その地を巡ることにした

数日後の大洪水を予知することもなく─

いの一番 夜明け前の那智の滝を撮影したくて 場所を探す

が 中々思いどおりの場所が見つからない

山をどんどん昇り 山頂近くまで辿り着いた

辺りは段々と白み始め 眼下に夜明け前の海が見えてきた

なんと美しい光景だろう 

雄大で澄み切った水平線に思わず私は息を呑んだ

後に知った事だが ここは弘法大師空海が

那智の海のはるか彼方にも浄土があると言われた場所で

近くには空海が創建したとされる阿弥陀寺が立っている

日が昇り やっとのことで、那智の滝の撮影ポイントを見つけた

だがその場所は工事中で立ち入り禁止だった

私はがっくりとし しばらくの間、滝を見つめていた

と 向こうから僧侶がニコニコとして近づいてきた

そして 私の車のナンバープレートを見て

「高知からお越しですか?」と 声をかけてくれた

僧侶は以前 高知の竹林寺を訪ねたことがあると

懐かしそうに話をしてくれた

思い切って撮影の事を相談すると

快くその場所からの撮影を承諾してくれた

僧侶の袈裟からはほのかに焚き染められた香が漂った

感謝の気持ちで 私はシャッターを切りながら

ヤタガラスに導かれた太古の原生林に覆われた 

神々しい滝の姿を思い巡らせていた

落差133m 日本一の大滝である

断崖絶壁を一気に流れ落ちる滝そのものが ご神体だという

轟音と共に流れ落ちる姿は勢いのある龍のごとく

砕けた水は 水煙を放ち羽を広げる鳳凰のように美しい

五大(地・水・火・風・空)の霊気が漂う美しい聖地

雄大な自然が広がり やさしく語りかける声なきメッセージは

私を刻(とき)のはざまへと誘ってくれる

その夜は滝へのライトアップが行われた

ちょうど満月の日で 月光に反射した三重の塔と滝は

幽玄な姿へと様を変える 厳かな儀式のようだ

私は自分の中に流れ落ちる滝()を感じていた

時には限りなく人々を癒し そしてまた時には

その力で全てを浄化し 人に愚かさ儚さを伝える

空から下り 地を潤してやがては空に帰る

滝はその生命(いのち)の循環そのものなのか

 私はあらためて自然への恵みと感謝の中

   万物の生命の神秘性や偉大さを再認識することができた

          この自然が永遠に続くことを願って─

                         禁無断複写・複製・転写

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高知新聞連載6月6日(地球・美の幻風景)              ~ブルージュ・屋根のない美術館~

S           ~ブルージュ・屋根のない美術館~

現在も中世の街並みがそのまま残っている

ベルギーの水の都ブルージュは『屋根のない美術館』と称され

路地を通り抜けて街を奥深く歩けば歩くほどに

その魅力にとりつかれていく

運河に囲まれた街一帯が世界遺産に登録されており

まるで 歴史のトンネルをくぐり抜けて行くようだ

『ブルージュ』とは「橋」の意味を持つ

街には50以上の橋が運河に架けられていて

橋の一つ一つを数えながら渡ってみるのも楽しみの一つだ

橋の上から眺めるブルージュの街並みは絶景

まさに屋根のない美術館を実感し 堪能できる至福の時間だ

生活の中に溶け込むように

水と共に歴史を築き上げた古都の姿が

絵画のように目の前に現れる

しかし そんなブルージュも 

小説(死都ブリュージュ ・G・ローデンバック)によると

歴史の舞台から取り残された時代があったようだ

だが 生まれ変わった姿はより美しさを増すのだろう

夕暮れ時は 街全体が柔らかく覆われ 辺りは金色に染まる

風に吹かれながら歴史のオブラートに包まれて

橋の手前に私は三脚を構えた

恋人達がうっとりと時間を過ごしている

運河に映りこむ世界遺産の建物その上を滑るように舟がゆく

どの風景も私を虜にし 時間の経過を惜しみながら

シャッターをきった 一枚一枚を愛おしむように・・・

前世のどこかでこの街に住んでいたのではないかと思うほど

私はブルージュの空気にぴったりと寄り添える事が出来た

いや これは私だけではなく 

きっと訪れた誰もが感じる郷愁なのかもしれない

一番の私のお気に入りは 

この写真の13世紀フランドル伯夫人により

設立されたと言われているベギン会修道院周辺だ

深い木立を中庭に持ち 

昔と変わらぬ信仰を持ち続けるベネディクト派の修道女たちが

今も静かに生活をしている

修道院の背後にはとりわけ大きな運河があり 

緑の広場では白鳥たちが羽を休めている

ブルージュの白鳥たちは愛の象徴

優雅な愛の姿に人々の心は解きほぐされていく

そして ここでは人々の声が馬車の音と共に

音楽のように流れて行く

また チョコレートで有名なブルージュは 

沢山の種類と彩りあふれたチョコが店先に並び 

街ゆく人々を笑顔に変えてゆく

とろけるような甘美な香りは 今でも私の記憶の中に残る

北のヴェニスと言われた運河の街ブルージュ

水を巡る私の旅は 物語を紡ぐように先へと続く

                    禁無断複写・複製・転写

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