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2012年3月

高知新聞連載3月28日水曜ミュージアム           (地球・美の幻風景) ~千年の響き~

Photo                                          千年の響き~ 

春が来ると 桜が放つ‘なにか’が 私を引き寄せる

そのたびにその‘なにか’を感じたくて 桜の木に気持ちが向く

この年の春も高知県の桜を追いかけた後

岡山県真庭市にある醍醐(だいご)桜へ 車を走らせた

のどかな田園風景に くねくねと続く細い道を上り詰めると

小高い丘の上に堂々とそびえたつ 一本の桜がある

後醍醐天皇がこの桜を見て賞賛されたところから

醍醐桜と言われた

また大河ドラマの「宮本武蔵」でも撮影の舞台となり

孤高の一本桜として 土地の人々に受け継がれ

守られて来た樹齢千年ともいわれる桜の木である

まだ花冷えのする中 天候はあまり良いとは言えぬ日だったが

何故か 予感めいたものを感じ

はやる気持ちを抑えながら 道を急いだ

到着後 辺りはまだ薄暗く 夜明けには少し時間があった

私は 桜に向かう小道の片側に目をやった

そしてあることに気づいた 同じ名前の墓標が並ぶ

その名前は 「春木」 いかにこの桜がこの村人と共に

生きて来たかという証のような名だ

あらためて桜と共に生きてきた村人の歴史を思う

薄紅色の花に覆われたその巨木の前に立った時

一瞬 その‘なにか’を感じたのだった

「桜」の語源に「サ(稲(いな)霊(だま)・いなだま)

クラ(神の坐(くら)・かみのくら)と言う説がある」

太古より自然造形物の中に神を見出してきた

日本人の生きざまを まさに今 私自身が体感しているようだった

花枝は 風の行方を追いかけて 大きくしなる

その先には

千年と言う気の遠くなるよう長い悠久の時間があった

過去から現在へ そして未来へと永遠に続く時間だ

底知れぬ深遠なまなざしの奥で

自分の中の時間軸がゆっくりと動く       

夜が明けても太陽は雲に隠れたままだった

光に包まれて微笑む(ほほえ)桜を撮るには整わない

数人桜を取り囲んでいたカメラマンは

一人 また一人と 諦めて帰って行った

残された私は 異次元の世界へ迷い込んだように

そこから動けずにいた そして ‘なにか’を待ち続けた

その時 空の様子が急に変わった

雲に切れ間ができ 光がシャワーのように降り注いだ

ゴォーと風が唸る 三脚にしがみつき

この風をも画面に封じ込めたいと願い 何度もシャッターを切った

突然桜の花びらが雪のように舞った

桜は謳(うた)い 微笑んだ

撮影を終え私は思った

季節を感じるという事はどういうことだろう

驕(おご)ることなく巡りくる春

季節の移ろいは流れるように滑るようにいつの間にか

美しく人々の心に根をおろす

そんな 四季の季節の中にいるという存在こそが

日本人のもつ真の美意識なのかもしれない

                                                            

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高知新聞連載3月14日 水曜ミュージアム  (地球・美の幻風景) ~春物語~

Photo                        ~春物語~

春一番の風の中 私は はやる気持ちを抑えきれず

国道194号 仁淀川沿いを 上流に向かって車を走らせた

待ちわびた新しい季節を象った風景は

記憶の中ではいつも懐かしい

閉じ込められた時間が解き放たれ 一気に解放感が芽吹き

新しい季節の香りと共に体の中に浸透してゆく

大地は蠢き ガラス越しの光は春と言う季節を忘れるくらい強い

途中 少し遅めのランチを「土佐和紙工芸村くらうど」でとる

ここからの景色は私のお気に入りだ

以前 霧に浮かぶ幻想的な仁淀川に出会えたのもこの場所だった

また 裏山には見事な山桜が春を告げる

仁淀川の風を感じながらこの道を一時間足らず走ると

「ようこそ吾北村へ」の看板が迎えてくれた

ここ吾北村は 清らかな水や樹などの豊かな自然と

その中に脈々と受け継がれてきた丁寧な人々の暮らしがある

吾北村は、合併のため2004.10. 01から吾川郡いの町になった

平成7年には当村がロケ地となった映画

「絵の中のぼくの村」でも有名である

映画のロケなどがきっかけとなりこの村は

当時 世界でただ一つの『写真文化の村』宣言した所でもある

私は車から降りて少し散歩した

子供達のにぎやかな声に誘われるように 川辺へと向かった

しかしそこには子供達の姿はなく 沢山の花々が咲いていた

手前には大根の花 その先は菜の花、そして桜・・・

季節の彩が寄り添い 春色の画集を広げたようだった

ふと黒沢明監督の「夢」のワンシーンを思い出した

素朴な春の情景に 私はしばらくの間

ぼんやりとして過去と未来の時間の隙間に

足を滑らせたような感覚にまどろんでいた

うっすらと靄がかかったような頭の中で

さっきの子供たちのにぎやかな声は

一体どこから聞こえたのだろうかと考えた

それは もしや あの春の花々達の囁きだったのかもしれない

こんな春の日は 当時 親しくさせて頂いていた

村長の故筒井与門さんの優しい笑顔を思い出す

ごちそうになった奥様の手料理の美味しかった事!

そんな温かい人々を育む村の自然は

次の世代に受け継がれてほしいと願うばかりだ

東日本大震災から一年の月日が流れた

瓦礫の下に埋もれてしまった多くの時間

海に呑み込まれた沢山の想い出・・・

失ったものの大きさは計り知れない

しかしその 埋もれた時間の中から

また新しい季節は訪れ 命は芽生える

春逝く人たちはこの季節の中に蘇り

                  美しい風景の一部となって

                             我々に希望の力を与えてくれるだろう

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高知新聞連載2月29日水曜ミュージアム              (地球・美の幻風景) ~水幻想~

Photo                        

                     ~水幻想~

世界遺産 日光東照宮の近郊 

奥日光の中西部に位置する小田代ヶ原

三方を山で囲まれ浅い盆地になっている

その為 局地的な豪雨などにより数年に一度

幻の湖「小田代湖」が誕生することがある

撮影した年は どうやらその数年に一度の年に巡り会えたようだ

4年ぶりだと聞く 大きな台風が来ると 多くの自然が被害を受ける

だがまた このような美しい風景も台風の副産物だ

そして 誕生した湿地帯には沢山の植物や生物の命が育まれる

そのニュースを知った時 私の心はもうすでに湖の前に立っていた

天気予報とカレンダーを突き合わせながら出発の日を決めた

沢山の機材を愛車に詰め込んで 真夜中に家を出る

途中仮眠をとりながらの長い道程であった

目的地は思いの他遠く 現地の駐車場に着いた時は

予定の時間をはるかにオーバーしていた

すでに辺りは暗く 明るい間に下見をしておきたかったのが

正直な所だが 仕方がない

本番に備えて私は 少し仮眠をとり 夜中に起きて準備をした

撮影ポイントまでは車両禁止 ここからは徒歩で行くしかない

早朝3時半 朝日の撮影の為 

約2時間かけて暗闇の中 初めての山道を歩く

なんだか不安だ 下調べの資料を頼りに 

灯りのない道を歩き出した

歩み進めるうちに段々と闇に眼が慣れ

空と森の境界線がはっきりと区別できるようになった

そして少しカーブを曲がった所で 

なんと真正面に 満月が案内人のように道を照らしてくれている

先ほどの不安は徐々に消え去り 

少し弾んだ気持ちにさえなってきた

満月が浮かぶ空は明るく 見上げると森がシルエットになり美しい

森の静寂さに包まれ 同化していくのを感じた

そして森が語りかける声に心が少しずつ調和に満ち

豊かさを取り戻していた

目的地に近づくと 二か所の入り口があり

迷ったが 先に来て居る人達のヘッドライトを頼りに 

撮影ポイントまでたどり着いた

私は息を呑んだ 

そこではかつて見たことの無い 幻想的なドラマが始まっていた

静かにたちこめる霧が 龍のごとく うごめいている

「小田代ヶ原の貴婦人」と呼ばれるシラカンバの木を意識して

私は 湖を取り囲むように続く木立の道に三脚を立て

ブレないよう注意を払って撮影をはじめた

人は 一生に何度このような風景に出会えるだろうか

今年は 4年に一度のうるう年 偶然にも今日は2月29日―

4年と言うサイクルは遠い宇宙の営みの中で 

点にも値するものではないかもしれない 

しかし その点が繋ぐ黄金比の連続で彩られた宙の世界を

意識せずにはいられない 

4年ぶりに姿を見せた小田代湖に出会えたこともそうだ

たくさんの葉を落とした木々たち 

それは やがて芽生える青葉の為に

自ら律した 再生という生命の循環への

希望のメッセージなのかもしれない

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