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2011年11月

高知新聞連載11月30日(地球・美の幻風景)~聖木~

Photo          ~インディアンの聖木~

グランドキャニオンの南端に位置する

ハバスーパイ村を訪れた時のことだった

憧れのハバス滝に向かう途中に

門番の様に出迎えてくれた老木があった

他の木々と比べ はるかに太く威厳を保っていた

プエブロインディアンが聖木として崇めるコットンウッドの木だ

プエブロインディアン達は 自らの存在を自然の一部と捉え

自然を変えるのではなく受け入れることを生き方としている部族だ

そして彼らの大切な儀式には今でも必ずこの木が使われるという

何百年もの間 ハバスーパイ村のシンボルとして

何世代ものインディアンに愛され 崇拝されてきた

守り神のような存在なのだ

なぜだろう

木に触れる時 人は謙虚な気持ちになれる

大樹の中を流れる水脈を耳の奥に沈ませながら

私は 木の持つ長い長い時間に人の時間が

包み込まれて行くのを感じる

静謐な刻の歩みだ

しかし 私がこの村を訪れた後 まもなく大洪水が起き

この木も根こそぎ浚っていったのである

3年たった今 崩壊した村は少しずつ再生に向かっている

その頃の地形は変わり 滝は崩れ 姿を消した

けれども新たに美しい滝が生まれている

枯れて 流された多くの木々

しかしその後には薄緑色の葉が芽吹いているという

自然のサイクルの中で逆らうことなく

インディアンたちは 

自分たちの自然観や世界観を守り続け生きている

流されたコットンウッドの木も

そのサイクルの中で凄まじい洗礼を受け

形を変えてまたいつか

我々の前に姿を現してくれるのかもしれない

どんなに人類が知恵と力を蓄えても

自然を自然のまま受け入れない限り共存することは出来ないのだ

もう二度とこの地では姿を見る事の無い聖木・・・

一体どこへ流れて行ったのか

神が必要とし 連れ去っていったのだろうか

今でもあの幹に触れた暖かな感触が蘇る

地球の この大きなエネルギーは どこへ向かっているのだろう

形あるものは形をなくし 形の無いものがまた形を作る

森羅万象のなかで 終わりのない旅をしているのかもしれない

                        禁無断複写・複製・転写 

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高知新聞連載11月16日(地球・美の幻風景)        ~龍馬・虹のかけ橋~

_1                 ~龍馬・虹のかけ橋~

いつの時代も はじまりは人の思いが繋ぐ夢・・・。

20年前 県内の有志の思いから始まったという

この高知県立坂本龍馬記念館

13日、誕生日を迎える坂本龍馬に先立ち

坂本龍馬記念館の20周年式典に参加させていただいた

その日 太平洋に向かって真っすぐに突き出た龍馬記念館は

11月の秋の日とは思えないような強い日差しの中

ガラスの壁に周りの景色を映し込みながら大勢の人々を迎えた

オープンして20年 来館者は300万人を超えるという 

まさに時代を超えたスーパーヒーローだ

祝辞を述べられた人々の言葉はそれぞれ違えども

記念館に込められた龍馬への熱い思いは変わらない

私も作品展を何度かさせて頂き 

講談社100周年記念のアメリカの写真集を出版するという

ご縁をいただいたのもこの記念館のおかげである

かつて 龍馬も見ていた大海原 

遠い異国へ思いを馳せたまなざしを感じさせてくれる

館からの絶景は まさに龍馬の精神の象徴だ

初めて上京した時 

カバンの中にひとつだけ龍馬の人形を持って行った

それはひもを引くと龍馬がしゃべりだす代物で

「小さい事でくよくよしちゃあいかんぜよ・心はいつも太平洋ぜよ」

龍馬人形がしゃべりだし 

当時の私はいつもその言葉に励まされていた

(この商品は記念館創立時にヒットしたグッズだった

自分が写真家となり 今日に至るまで 

龍馬と故郷を共にするという事は 

時を経るに従って喜ばしく誇りに感じる

高知へ帰って来てから 多くの恩恵を受けたお返しに

私なりの龍馬像を一度カメラに収めたいと常々思っていた

なかなか果たせないまま過ごしていた私だが

それは昨年のことだった 

晴れていたかと思えば突然雨が降り 傘の準備をしていると

さあ~と光が降りてきて みるみる青空が広がってくる

そして 夜になると遠くから 近くからゴロゴロと雷の音が鳴り響く

異常気象と世間では騒がれ

不安定な天気が集中して続いた時期であった

逆に 写真家にとっては奇跡の瞬間に出会えるチャンス

またとない出会いの予感を抱きながら 私は桂浜へ通った

通い詰めた3日目のこと 

変化し続ける波に魅せられながら撮影をしていた

ふと振り向いた空に目をやるとなんと

龍馬像の上辺りに虹が出ているではないか

私は砂浜を龍馬に向かって走った

機材を全部抱えてとりあえず全速力で走った!

階段を無我夢中で駆け上がり 息をきらしながら

撮影ポイントにたどり着くまで 「虹よそのままでいてくれ!」

と祈りながら突進した

ゆっくりと海辺で朝の散歩を楽しんでいる観光客から見るとさぞ

滑稽な姿に写ったことだろう

撮影後 私は見上げた龍馬像が笑っているかのように見えた

強い志と深い眼差しを持ち 時空を越え 

今もなお人々を魅了する坂本龍馬

虹のように大きく美しく 

人々の思いが繋がって希望や平和のかけ橋とならんことを願う

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高知新聞連載11月2日(地球・美の幻風景)         ~英国の貴婦人~

Photo                    ~英国の貴婦人~

私の創作の原点は音にある 自然の音もそうだが

イギリスのブリティシュロックを好んで聞いていた時代があった

そんな音楽がどんな情景から生まれていたのかと

とても興味をもっていた

その後 親友のギターリストがロンドンに移住

私はイタリアからの帰りに彼の所に立ち寄ることにした

ヒースロー空港で立ち読みをしていた雑誌の特集に目が留まった

のどかで懐かしく 緑の丘と愛らしい家 時が止まったかのような田園風景

                       まるで絵本の世界 

そこには、「英国で最も美しい村・コッツウォルズ」と書かれてあった

歴史を刻む豊かな文化遺産と美しい自然に満たされた

イングランド最大の特別自然美観地域 約30もの村が点在している

私は 彼との再会の後 早速コッツウォルズまで足をのばした

ロンドンの西約200キロのところに広がる丘陵地帯 

イングランドのほぼ中央にコッツウォルズ地方は位置し

東京都ほどの大きさだ

村を歩いてみると絵本の世界へどんどんと入って行くような錯覚を抱く

この村の歴史に吸い寄せられるかのように

私は石の家並みの中を歩き続けた

蜂蜜色の石(ライムストーン)をセメントも使わず

積み上げられて作られているという家々が並ぶ

この不思議な村のトーンがイングランドの光にあぶりだされ

ここに生活している人たちもどこか特別の存在のようにも思われる

村の人たちはカメラに写ることをあまり好まないようだ

中世から変わらぬ家だけが浮き彫りとなって

私のフィルムに焼き付けられた

ウイリアム・モリスが賞賛したバイブリーは

コッツウォルズの中でも一番有名な村だ

地方を流れるコルン川沿いに建っているのが

17世紀創業という伝統あるスワンホテル

バイブリー村のシンボル的存在だ

コルン川はとても透明感のあるきれいな川で

白鳥たちがのんびりと浮かんでいる

生活の中にこんなのどかでのんびりとした情景が

大事に守られている事を知り 私は心を許して岸辺に腰を下した

スワンホテルは この村にあって特別の彩りを添えている

秋ともなると 壁面を覆う蔦の葉が真っ赤に染まり 川の流れにその姿を映す

宿泊する者を優しく迎え入れ 至福の時間を堪能することができるのだ

アフタヌーンティーを飲みながら日常から離れることの不安を

安心感に変えてくれる

貴婦人からの招待状だ

チャールズ皇太子のゆかりの地も近くにあると 後に知った

黄昏時 レンズの先には 

高貴なまでに佇むスワンホテルが夕陽を浴びて

ゆっくりと色を変えてゆく姿があった

屋根に積まれた石が優しく光になじんで 気高い表情を見せる

撮影を終えて 私は女王に尊敬の念を込め 敬礼をして村を後にした。

                                

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