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2011年6月

高知新聞連載6月29日 (地球・美の幻風景)             ~光の神殿~

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          地球・美の幻風景      桐野伴秋の世界 
                   ~光の神殿~

アリゾナ州、セドナから北へ3時間ほど車を走らせると

ペイジという街に着く。

レイクパウエル国立公園として有名な観光地だ。

そこに、世界で最も美しい渓谷と言われている

アンテロープキャニオンがある。

アンテロープキャニオンはアッパーとローアとの二つの洞窟に

分かれていて、一般的に有名なのは、比較的

安全で容易に訪れる事が出来るアッパーである。

今回、紹介するのはローアで、少し危険を伴う洞窟である。

ここは晴れの日も油断できない。

遠く上流で降った雨があっという間に鉄砲水となって

流れ込んでくる危険があるからだ。ローアは全長400m余り。

アッパーと比べると約3倍の長さである。

ガイドは、洞窟の入口までしか案内してくれない。

あとは、自己の責任においての冒険となる。

緊張感の解けないまま、入口の前に立った私は

あまりの狭さに愕然とした。

大地の裂け目から身をよじるようにして

洞窟の中へ身体をすべり込ませてゆく。

深く狭い未知の世界・・・。

美しい波状のカーブを描く岩肌はまるで砂糖菓子のように繊細で、

手に触れるともろく崩れ落ちる所もある。

このあたり一帯にはナバホサンドストーンと呼ばれる砂岩が

一面を覆い、周囲のこれらの砂が何億年もの時をかけて

大地の裂け目を浸食して彫刻のような模様を施していった。

身体が流線にふれ、壊さぬよう機材を抱きかかえ、

私は奥へ奥へと進んでいった。

ひんやりとした空気の中で体温が“共鳴”していくのを感じた。

好奇心旺盛な幼い頃の記憶を辿るような

わくわくしたこの不思議な感覚はなんだろう。

年を重ねるにしたがって、

置き去りにされていた冒険心が少しずつ呼び戻される。

螺旋状に、曲がった細い道はまるで、地球の裏側に隠された

巨大な迷路のようだ。

私は、ゆっくりと40分程かけて、足跡を刻んでいった。

突然、ほんの僅かな隙間から太陽が洞窟内を照らし始めた。

挑戦と冒険の果て、たどり着いた先は、

崇高な光に彩られた、光の神殿だった。

プリズムのような色彩の架け橋の中心には、まるで

ターバンをまとったエジプトの王のような横顔が浮かび上がる。

遥か昔、

エジプトとこの周辺は地下で繋がっていたと言う

神話を思い出した。

私は今、その伝説の聖域に立って居るのだ。

光の洗礼を浴び、光の理力に吸い込まれそうになりながら、

私は無我夢中でシャッターを押し続けた。

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高知新聞連載 6月15日 (地球・美の幻風景)            四万十川 ~夢想~

Photo

        地球・美の幻風景      桐野伴秋の世界

                  ~四万十川・夢想~

水無月(みなづき)の慈雨に大地は湿り気を帯び、潤ってゆく。

昨年の今頃見た、ホタルの記憶がぼんやり、頭の中でともっては消える。

私にとっても胸おどる季節がやって来た。

ふわり、ゆらりと導かれるように、私はゲンジボタルの住む

四万十川の源流域へ、山の奥へと車を走らせた。

くねった細い道の両脇に覆いかぶさるように茂った枝葉が緑の影をつくる。

やがて、辺りは闇に包まれ、墨染めの衣を羽織ったかのように深まってゆく。

川の流れに沿って約二時間。目的の場所に着いた。

車のライトを消すと、闇の中から、

ひとつ・・・また一つ・・・と目が慣れるにしたがってホタルの数が増えてくる。

ふわっと漂ったかと思えば、消えて、その先に現れる。

梅雨の晴れ間、山肌に何気なく、ホタルブクロが咲いていた。

特に珍しい花でもなく、可愛らしい山野草である。

昔、子供たちは、提灯(ちょうちん)のような、

その形の中にホタルを入れて、遊んだという。

はかなげで、つかみどころがない 花あかり。

花びらを透して神秘的に光を放つホタルは小さな灯りとなり、

子供たちの心にも優しくともったことだろう。

何気ない日常の中に、自然とのふれ合いがあり、会話がある。

一輪の花にも物語があるのだと、季節の出会いを嬉しく思う。

私は、ホタルの邪魔をしないように、真っ暗の中、探るように三脚を立てた。

カメラの位置を定め、闇に、

そして空に向かってホタルの瞬きに呼吸を合わせるようにシャッターを切る。

レンズはキャンパスに描くように、乱舞するホタルの光の跡を残してゆく。

何処からともなく、ホタルの光は増え、幻想的な世界は広がる。

ひと気のないはずのこの場所は思いのほか賑やかだ。

川のせせらぎに混じって、

カジカガエルのクルクル鳴く可愛らしい声が届いて来る。

じっと耳を澄ませていると、星までが何やら音を奏でているようだ。

肩に止まりそうなほど近くを飛ぶホタルに、一茶の句が重なる。

         <大蛍 ゆらりゆらりと 通りけり

雨上がりの土の匂いと水気を吸った新緑の薫りの闇を、

        一週間ほどのわずかな命が舞う。

ホタルは、命の終わりが近づくと、空高く舞いゆくという。

     やがては星となり、思いは、月へと宿るのか・・・。       

        その夜、夢の中でも光の像がいつまでも巡った。

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高知新聞連載6月1日 (地球・美の幻風景) 水の民

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       地球・美の幻風景   写真集「セドナ奇跡の大地へ」より

       ~ブルーグリーン・水の民~       秘境 地球の底深く

旅の記念にと立ち寄ったショップで、1枚のポストカードを目にした。

そのあまりにも美しい滝の姿に、私は釘づけとなった。

「どうしてもその場所に行きたい」。もう一人の私が背中を押した。

米国ハバスーパイ村は、グランドキャニオンの南端に位置し、交通手段は通常、

歩くか馬、もしくはロバに乗る。砂漠のような道や険しい岩道をどんどん下る。

脱水症状を防ぐため、最低3ℓもの水を背負わなければならない。途中、

力尽きた馬たちの死骸を横目に、約5時間かけて到着する。

原住部族の居留区内にあり、数々の滝がある秘境だ。

「ここはパハウィーブだよ」と村の長老は語る。

「地球の底深くある水」という意味があり、

そこに住む人々は「ブルーグリーン 水の民」と呼ばれている。

ゴォーという轟音とともに目の前に開けたハバスーパイ滝。

虹色の水しぶきが舞い上がる中、天から降り注ぐ陽光(ひかり)を受け、

グランドキャニオンの底で、宝石のように輝く、

まさに水の楽園「水の惑星地球」である。
 

訪れる誰もが一言目には、「オー・パラダイス!」と叫ぶ。

私はしばし時に身を任せ、遠い想い出の中に帰っていった。

何とも言えぬ不思議な緊張感と心地良さ。

もしも私が終(つい)の場所を選ぶことができるならば、この地なのかもしれない。

深く、そして静かに呼吸した。

撮影を終えて、

私は解放された風のように滝のしぶきの中へと飛び込んでいった。

願いかなって訪れた2008年夏・・・。

私が帰国して10日ばかりのことだった。大洪水のため、村は崩壊したという。

3年たった今、崩壊した村は少しずつ再生に向かっている。

地形は変わり滝は崩れ姿を消した。けれども新たに美しい滝が生まれている。

枯れて、流された多くの木々。その後には

薄緑色の新芽がこぼれるように芽吹いていると聞く。

自然のサイクルの中で、

インディアンたちは自らの存在を自然の一部として捉え、

自然を変えるのではなく受け入れて生きてきた。

形あるものは形を無くし、形の無いものがまた形を作る、

森羅万象の中で、全ては終わりのない旅をしているのかもしれない。

東日本大震災から3か月が経とうとしている今、

地球が何億年も掛けて蓄えてきた巨大なエネルギーは、

いったい何処へ向かっているのだろうか!

 美しい風景には力がある。

       再生へ向かう、自然の姿が、

              人々の生きる力や希望の光になれば、と願っている。

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